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熱の伝わり方3つ+2を事例を踏まえてわかりやすく解説

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前回の記事でこんな疑問が生じました。

  • 空気が含まれているダンボールは発泡スチロール並みの断熱性能を持っている→空気は熱を通しにくい?
  • 冷房の効いている部屋のドアを開けると、外の熱い空気がすぐに流れてくる→空気は熱を通しやすい?

この疑問は、熱の伝わり方を理解すると解決します。

熱の伝わり方の3つは、中学では「対流たいりゅう」「伝導でんどう」「輻射ふくしゃ」と習うようですが、伝熱工学では「対流熱伝達たいりゅうねつでんたつ」「熱伝導ねつでんどう(=伝導)」「熱放射ねつほうしゃ(=輻射)」の3つです。また気化熱による熱の移動も含めて

  1. 対流
  2. 対流熱伝達
  3. 気化熱
  4. 熱伝導
  5. 熱放射

の5つについて解説します。身近な例を入れてなるべくわかりやすく説明していきますね。

 

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熱の伝わり方 ~対流~

対流とは、空気や水などの気体・液体(流体)が移動することです。「熱が伝わる」というよりも、「熱をもった(冷気をもった)流体が運ばれる・移動する」という表現の方が正しいのかもしれません。

対流の事例1

扇風機の前で「ぷっ」とします。

風下にいた家族から悲鳴が上がります。

「ぷっ」が対流により、家族のいる風下へ移動したことにより起こる現象です。

対流の事例2

エアコンの冷房をつけると、冷たい空気が出てきます。

熱が運ばれて(冷気なのでマイナスの熱でしょうか)、部屋の暖かい空気と冷房の冷たい空気が混ざり合って、全体の部屋の温度が目標温度まで下がっていきます。

 

対流の事例3

対流の特徴をとらえて工夫したお店の例を紹介します。

あるホームセンターへ行った時のこと。

お店の中へ入るときに自動ドアが2つありました。遠回りして入らねばならなかったので、不便だなぁと感じました。

自動ドアの張り紙には、「強風が入ってくるのを防ぐため」のような言葉が書かれてありました。

対流って、空気や水が流れていくことですが、空気も水も基本的にまっすぐ進みます。

人間も50m走全力で走っているときに、急に直角に曲がることはできません。

外力が加わらない限り、まっすぐに進み続ける法則を慣性の法則かんせいのほうそくといいます。

  • 強風がまっすぐ店の中に入って商品や広告のポップアップなどを倒したりしないように
  • 熱風がまっすぐ店の中に入ってきて、店の中の快適性が失われないように
  • ドロボーが逃げるときに、まっすぐ逃げられないように

私の想像も入っていますが、ちょっとした工夫でメリットがいろいろありそうです。

ちなみに「おれは直角」というアニメが昔ありましたが、主人公の得意技は「直角切り」。剣筋が直角に曲がるので、完成の法則という物理法則が当てはまらない!というツッコミを入れたくなりました。

面白くてアニメで毎週欠かさず見てました。

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作者は小山こやまゆうさん、「あずみ」の作者です。

話がそれましたので、次へ進みましょう。

 

熱の伝わり方 ~対流熱伝達~

次は対流熱伝達たいりゅうねつでんたつです。

対流との違いを意識しながら読んでみてください。

対流は流体(空気や水)が移動し、流体同士で熱のやり取りがあります。冷房をつけて部屋の暖かい空気が冷えていく様子は対流によるものです。

対流熱伝達は、流体から固体へ熱が伝わる現象を言います。

5℃に冷えたペットボトルを外の30℃の風に当て続けたとします。すると風の方が温度が高いので、対流熱伝達により風からペットボトルへ熱が移動(熱交換)します。(下図)

30℃の風を当て続けると、対流熱伝達でペットボトルも温度がどんどん上昇し、風の温度(30℃)近くまで上昇します。風の温度とペットボトルの温度が同じくらいになると、熱の移動がほぼ0になってしまうので、風の温度を超えることはありません。

熱の移動量は次の式で計算することが出来ます。

Q=αA(T1ーT2

  • Q:熱の移動量[W]
  • α:熱伝達率[W/(m2・℃)]
  • A:(熱交換する)表面積[m2]
  • T1:(ここでは)風の温度[℃]
  • T2:(ここでは)ペットボトルの水の温度[℃]

なんとなく難しく感じますが、この式から言えることは、

  • 熱伝達率を増やすと(風速を上げると)熱がたくさん移動する
  • 表面積を増やすと(ペットボトルを500ml→2lにするとか)熱がたくさん移動する
  • 温度差が大きいと(風の温度と水の温度差)熱がたくさん移動する

ということです。

逆に言うと、対流熱伝達で熱交換量の増減に影響を与えているものは熱伝達率(風速)か、表面積か、温度差しかないわけです。

少しシンプルになってきましたでしょ!

表面積は、簡単な形状なら紙とペンで計算できます。温度差は、温度計で測れます。熱伝達率はちょっとやっかいで、測るのは難しいです。おおざっぱに計算で求めることは出来ます。

熱伝達率と表面積に大体の数字を入れて、ペットボトルの水の温度変化の様子を計算してみましょう。(表1)

表1.ペットボトルの水の温度変化の様子

表1は1分ごとに計算しています。なぜならば、1分経つと水の温度が少し上昇し、温度差(風の温度ー水の温度)が初期の30-5=25℃よりも小さくなるからです。温度差が小さくなると熱交換量も小さくなります。時間が経つにつれて、温度差が小さくなっていき、熱交換量が減少=1分あたりの水の温度上昇量も減少し、グラフななだらかになっていきます。そして風の温度30℃に近づいていきます。表1を180分まで計算したものが図1です。

図1.時間(0分~180分)と風・水の温度の関係

水の温度が風の温度と同じほぼ30[℃]になったとき、温度差は約0[℃]になるので、熱交換量Qもほぼ0[W]になります。ですので、30[℃]の風ではこれ以上水の温度を上げることは出来なくなるわけです。

図1のグラフはエクセルで計算した結果です。本当にこのようなカーブを描くグラフになるのかなぁ?と疑問に思った人はいないでしょうか?

何でもうのみにせず、疑問に思うことはいいことです。

ならば、実験してみましょう!

扇風機とペットボトルと温度計さえあれば出来ちゃうんですから。安上がりなことこの上ない。

5℃くらいに冷やした水(見えやすいようにここでは麦茶)に扇風機の風を当てて行きます。

今はちょうど夏なので扇風機の風は28~29℃くらいです。

風の温度と水の温度を測定するためにセンサーを2つ使いました。(5分おきに温度計で測ってメモで全然構わないのですが)

”おんどとり”という温度ロガーを使用して10秒おきに温度を自動で計測できるようにしました。

実験結果がこちらです。(図2)

図2.実験結果

実験結果を点線で表しました。当初予想した通り、水の温度がだんだんと風の温度に近づいていっていることがわかります。また、水の温度が風の温度に近づくほどカーブが緩やかになっていますね。

また実線は計算した結果ですが、図1と比べて温度上昇の時間が大きく異なっています。図1では水が23℃になるのに90分ですが、図2では23℃になるのに30分少しです。

これは図1と図2のグラフの計算パラメータが違うことが原因です。図1のときは適当に数値を決めていました。図2のときは、ペットボトルの表面積や重さはちゃんと測って計算し、最後に熱伝達係数だけ実験のカーブになるべく近づくように数値を決めました。(表2)

表2.パラメータの変化とその根拠

ここで未知数は熱伝達率だけでしたから(他は測定したり調べたりして数値が決まった)今回の実験の扇風機の風の強さ、風の当たり方であれば、熱伝達率は45[W/(m2K)]くらいだ、と推定することが出来ます。

そもそも自然対流のときの熱伝達係数がおよそ5[W/(m2K)]くらいなので、図1のときに仮決めしたパラメータ(10[W/(m2K)])が小さすぎたのかもしれません。

実験の写真をよく見てみると、ペットボトルの表面に水滴がたくさんついています。そうすると気化という別の物理現象が作用してしまった可能性があります。実際に図2の実験と計算の水の温度上昇のカーブはなるべく合わせたのですが、どうしても実験の方が温度上昇度合いが緩やかになっています。

これについては次の項で説明します。

ちなみに実験で使った温度計測器はこちら。

 

熱の伝わり方 ~気化~

夏にお風呂から出たときに、体をあまりふかずにせんぷうきに当たると、とても涼しく感じます。それどころかずっと当たってると冷えすぎて寒くなることもあります。

これは体についている水分が蒸発(気化)して、そのときに熱をうばうためです。

これは、一般的な説明です。その通りなのですがそれだけでは面白くありません。空想実験を行ってもう少し掘り下げてみましょう。

この現象をもう少し正確に書くと、「①皮ふに水滴がついた状態で、②風を当てると、③水滴が蒸発し熱を奪う」

①②が原因(結果を引き起こす条件)、③が結果です。

①で水滴が無かったら、②で風が無かったら、を考えると下表の4パターンの条件が出来上がります。それぞれのパターンの時に冷えるかどうかをこれまでの経験から想像してみましょう。

  ①水滴 ②風 ③結果
条件1 あり あり 冷える(1位)
条件2 あり なし やや冷える?(3位)
条件3 なし あり 涼しい(2位)
条件4 なし なし 変わらない(4位)

条件を1つだけ変えてその条件の効果はいかほどかを見る実験を対照実験と言います。

ここでは、条件1と条件2の比較、条件3と条件4の比較では「風のあるなし」の効果→風あった方がだんぜん冷えるよね

条件1と条件3の比較、条件2と条件4の比較では「水滴のあるなし」の効果→水滴のあるなしではあまり効果が変わらなさそう

皮ふに水滴がついているだけでもゆっくりと気化して熱は奪われますが、水滴と風が吹くという2つの条件がそろうと、水滴が速く蒸発し、熱を奪うスピードがぐっと上がることがわかります。

先程の対流熱伝達の話も踏まえると、

  • 風を当てることにより、対流熱伝達で皮ふの熱が奪われる
  • 水滴がついた状態で風を当てることにより、水滴の蒸発(気化)が促進され、熱が奪われる

2つの物理現象が起きていると考えられます。

対流熱伝達のところで説明したペットボトルの表面の水滴に風を当てるのも同じことですね。

 

熱の伝わり方 ~熱伝導~

対流熱伝達は、流体(気体や液体)と固体の熱のやり取りでした。

熱伝導は固体どうしの熱のやり取りです。

手で何かをさわったとき、

  • 熱いと思ったら、手は熱をもらっています
  • 冷たいと思ったら、手から熱が逃げています

人の心も、

  • 心の温かい人は、思いやりをくれる人
  • 心の冷たい人は、与えても与えても返ってこない人

なのかもしれません(笑)。

熱をもらうのも逃げるのも、熱の移動するスピードが物質によって違います。これを熱伝導率ねつでんどうりつといいます。

一例を下表に示します。

物質の熱伝導率([W/(m℃)])

370
アルミ 230
35~58
空気 0.023

※参考:冷凍空調技術〔日本冷凍空調学会〕 P.44

銅やアルミは熱を通しやすいです。銅の棒、アルミの棒、鉄の棒3つあったとして、片方を手で持って、もう片方を日であぶったときに、一番早く「あちっ!」となるのが熱伝導率の高い銅の棒です。

そういうイメージをするとわかりやすいでしょうか?

熱伝導で熱の伝わりを表す計算式はこちらです。

\(Q=λ\frac {A}{d}(T_{1}-T_{2})\)

  • Q[W]:熱の移動量(1秒間に何Jの熱が移動したか)
  • λ[W/(m℃)]:熱伝導率
  • A[m2]:面積
  • d[m]:(熱が伝わる)長さ
  • T1[℃]:温度(高い方)
  • T2[℃]:温度(低い方)

上の図のとき、何[W]の熱が移動するか計算してみましょう。

式に当てはめて、

Q=370×0.0314÷2×(200-30)=988[W]

988[W]の熱が移動することがわかります。

この図を見て私が最初に疑問に思ったのは、熱が988[W]も移動しているのに両端の温度は200[℃]、30[℃]のままでいいの?でした。

上の模式図は”両端の200、30[℃]の温度を固定する”という条件での計算ですので、”温度は変わらない”で大丈夫です。

上の図のイメージは「200[℃]のところで988[W]無限に発熱する、その熱が30[℃]の端で無限に吸収される」です。説明をわかりやすくするため、このような条件を用いていますが現実には無限発熱はありません。

 

日常生活で『火にかけたアルミ鍋を持つと何Wの熱が移動して熱いから調理用手袋使おう』なんて人はいません。

熱の伝わりやすさは、上の式の「熱伝導率」「面積」「長さ」「温度差」で決まるので

  • 熱いスープの中に入っているおたまの持つ所が金属だったらヤケドしそう、プラスチックだったら熱伝導率低いから大丈夫そうかな?(材質=熱伝導率)
  • 熱いお茶を出されたときに、湯呑みの腹を手でつかむとヤケドしそうだから、湯呑みの呑み口のところを手でちょんちょんと触って温度を確認しよう(手が触れる面積、お茶から指までの長さ)
  • バーベキューのときに、焼きそばを焼いている最中のトングは熱いから手袋をはめよう。焼き終わって火が止まっているときはそんなに熱くないだろう。(温度差)

これまでの経験を元に無意識にしていると思いますが、こんなところに先程の方程式が関係しています。

「なんとなくこうなるから・・」よりも「その理屈はこうなんだ!」がわかると、ちょっとうれしいのと、他のことで応用が効くかもしれませんね。

 

熱の伝わり方 ~熱放射~

 

 

(つづく)

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