将棋の詰みのパターンは何十種類と存在します。
有名なものであれば「頭金」「腹金」「吊るし桂」など。
その中で「突き歩詰め」という詰みがありますが、その詰みを実現するための条件は何か、配置の種類は何パターンあるのか計算してみました。
結果、約4000万通りあることがわかりました。詰将棋の問題が出尽くした…という心配は無用のようです。
この記事では、突き歩詰めの条件と計算方法を紹介しています。使用している算数の分野は小学6年生で習う「場合の数」です。
「突き歩詰め」とは
「突き歩詰め」とは、盤上にある歩を突いて相手玉を詰ませる詰みの一種です。
似た言葉で「打ち歩詰め」がありますが、「打ち歩詰め」は歩を突くのではなく、持ち駒の歩を打って玉を詰まそうとする行為です。
「突き歩詰め」はOKですが、「打ち歩詰め」は反則です。
突き歩詰めの条件
突き歩詰めを実現するためには、3つの条件が必要です。
- 盤上の歩を1つ進めることで王手する
- その歩を別の駒が支えていなければならない(取られてしまうから)
- 玉の逃げ場がない(攻め方の駒の利き、盤の端、守備駒)
各条件を具体的に見ていきます。
条件1:盤上の歩を1つ進めることで王手する
「玉」と「王手する歩」はマスを1つ開けて配置されている必要があります。(第1図)
第1図
この条件から玉の位置が限定されます。
玉が1、2段目にいると歩はと金になってしまいますから玉は1、2段目にはいないとします。(第2図)
※歩が成らないこともできますが、実戦ではまずありえませんので除外します。
第2図.5三に歩を進めると成るのが普通
また、玉が8、9段目にいると、歩を突き出しての詰みは配置上不可能なので、玉は7段目以前にいなければなりません。(第3図)
第3図.この位置では歩を置けないし突くことも出来ない
よって玉の位置は3~7段目の範囲となります。
縦の1~9筋ではどこでも大丈夫ですが、1~4筋と6~9筋は左右に対称なので、1~4筋と5筋に玉がいるときのパターンを確認して、1~4筋のパターン数を2倍します。
よって、確認する玉のマスは3~7段(5通り)、1~5筋(5通り)なので5×5=25通りです。
条件2:突く歩は別の駒が支えていなければならない
単独の王手では歩を取られてしまうので、別の駒で支えておく必要があります。
支える駒は「香車、桂馬、金、銀、角、飛車」の6通りです。(歩で歩を支えるのは二歩で反則)
支える駒1:香車
香車は玉の段の位置が決まると、配置のパターン数が決まります。
例えば玉が3段目であれば、突いて王手する歩は5段目です。その場合、香車は6,7,8,9段目に配置され、配置の仕方は4通りです。
玉がn段目のとき、これらを考慮すると香車の配置の仕方は(7-n)通りになります。(第4図)
第4図.香車は赤いマス4通り配置できる
支える駒2:桂馬
桂馬は2通りです。(第5図)ただし玉が1筋のときは1通りです。
第5図
支える駒3:金
金は2通りです。(第6図)この場合は金を上がって頭金の詰みにも出来ますが、余詰めは今回は考えないこととします。玉が1筋のときは詰みは1通りです。
第6図
支える駒4:銀
銀も金と同じで2通りです。(第7図)
第7図
支える駒5:角
角は、玉の前にいる場合と後ろにいる場合で分けます。
【角が玉の前にいる場合】
玉が5三にいるときは8通りです。(第8図)玉の位置でパターンが変化するのであらかじめ表を作っておきます。
第8図
【角が玉の後ろにいる場合】
角が玉の後ろにいる場合、玉の前のマス(5四の地点)まで利きが届いている必要があるため、第9図でいうと8一と7二に角がいる場合、6三の地点に守備駒を置いてはいけません。
6三の地点は角の利きによって玉の逃げ道を封鎖します。
第9図.この場合だと角の配置は4通り
支える駒6:飛車
飛車は縦に使う場合と、横に使う場合に分けます。
【飛車を縦に使う場合】
玉がn段目のとき、飛車は7-n通り配置できます。これは香車のときと同じです。
【飛車を横に使う場合】
玉が5三の場合、四段目に配置します。玉の前、斜め前の3マス以外すべて置けるので、飛車が置けるパターンは玉がどこにいても6通りになります。
飛車の横利きを妨げる玉の斜め前の位置に守備駒を置いてはいけません。(第10図)
第10図
『条件2:突く歩は別の駒が支えていなければならない』からわかることは、実戦で相手玉を詰ますためには最低限2つ以上の駒が必要ということです。
2つの駒、この場合は歩ともう1種類ですが、駒の組み合わせによって、詰みの直前の配置が全然違ってくることがわかります。
1つ1つの駒の動かし方は初心者でも知っていますが、複数の駒を組み合わせて使うとき、上級者になるほどその活用の仕方が上手いとも言えます。
玉の逃げ場がない(攻め方の駒の利き、盤の端、守備駒)
玉の逃げ場を無くす条件は、
- 攻め方の駒の利き
- 盤の端
- 味方の守備駒
が挙げられます。
今回は攻め方の駒は「歩」と「歩を支える駒」のみとします。(何でもありにすると計算しきれないため)
そうすると攻め方の駒の利きで玉の逃げ場を無くせるのは歩を支える駒の「角、金、銀」となります。
また盤の端で玉の逃げ道をふさぐのは玉が1筋にいるときです。
次に味方の守備駒の配置をマスごとに見ていきます。玉の周囲のマスにA~Gと名前を付けます。(第11図)玉の前に駒は何も置かないこととします。
第11図
A~Gの守備駒は攻め方の歩が王手した時に、取れない状態であるのが条件です。それぞれの位置で条件にあった駒は次の通りです。
- A,Bの駒:横に進めない駒(歩、香車、桂馬、銀、角)
- C,Dの駒:斜め前に進めない駒(歩、香車、桂馬、飛車)
- E,Fの駒:桂馬以外(歩、香車、金、銀、角、飛車)
- Gの駒:どの駒でも大丈夫(歩、桂馬、香車、金、銀、角、飛車)
また二歩も反則ですので、縦に使うことのできる歩の枚数は1枚のみです。攻め方の駒+守備駒で駒の上限の数も超えてはいけません。(香車は5枚使えないなど)
『条件3:玉の逃げ場がない状態でなければならない』からわかることですが、守備駒と言いながらA~Gに配置しているのは実は邪魔駒です。守っているようで実は邪魔をしている、パターンを数えながらとても皮肉な結果だと思いました。
実戦でも「壁」は速く解消した方がいいと言われます。美濃囲いの端歩を突くのもいざという時の逃げ道を確保するためです。(第12図)
第12図
突き歩詰めが実現する駒の配置パターンを求めてみる
先に見た条件から大まかな方針を第13図に示します。
第13図
もう少し細かく言うと、1筋に玉がいるときは玉の左側は壁であることや、守備駒の歩の位置によって置ける駒の種類がA~Gマスで都度変化しますのでさらに細かく場合分けをする必要があります。
玉が三~七段目、1~9筋にいるときの組み合わせの数をグラフにしたものが第13図です。
端に行くほど駒の配置の自由度が低くなるため、数が減っていくことが分かります。
第13図
まとめ
この記事では、「突き歩詰め」という詰みの条件とその組み合わせの数の計算方法の解説を「場合の数」を用いて解説しました。
この計算はもちろんExcelを使用しています。
「約4000万通り」は、私の計算だと39,783,068通りとなりました。ケタはずれないと思いますが、細かいところで計算ミスはしているかもしれない点はご了承ください。
文中にも示しましたように攻め駒を限定しているので、その制約を開放したらさらにパターン数は増加します。
もし興味があったら試してみてくださいね。
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